シナリオ上のキャラの役回り解説:天気の子4ヶ月遅レビュー③
レビュー3記事目。
普通こんなにレビュー書く人いないよ。
普通ならもっとキレイにまとめられる人ばかりだし。
ま、それだけ自分が下手な証明をしているわけで。
とかく今回はキャラクター像について、その立ち位置と気になる所をまとめたいと思います。
背景美術で没入感を出したけれども、人のレビューによっては登場人物のせいでハマりきれなかったと言う口コミをよく見ました。
そこについて、個人的な感覚を述べたいと思います。
登場人物は多いものの、大きくメインの4人に絞って語って行きたいと思います。
森嶋帆高
主人公。
良くも悪くも一直線。
自分の周りに置ける環境があまりに合わなくなり、家出をしてしまった。
その時に、住んでいた離島で何か意志を持って移動する雲のキレ目がどうしても気になり、それに合わせて向かった方角=東京に向かう事になる。
わからない事はヤフー知恵袋に頼ったりする現代っ子だけど、決心すると迷わないストレートな性格。
ヒロインの陽菜を思うがために、法的に間違った行為を自覚しながらも助けに行くために突き進むという、愚直さがある。
気になるところ
親子関係が見えないことや、家庭・就学環境がないから、何故に家を出たのかと言う心理描写への理由付けがされていないんですね。
そこで主人公への動機付けが弱い事。
また、陽菜への感情の動き方があまり見えないのもポイントです。
元はといえばビジネスパートナーとしての提案があった、その中で動機付けがあって好きになっていった。ならわかるんです。
しばらく見ていないので忘れているかもしれませんが、何かこう、陽菜の内面に触れる出来事やイベント的なものがあまりなかったような気もするのです。
確か1ヶ月から2ヶ月ほどの出来事だったはずなんです。
何かしら画像の止め絵を差し込むとか、そう言う恋に落ちるきっかけになるイベントがいくつか差し込まれてもおかしくないのですが、それもなく。
また、極端に陽菜推しなのも受け付けられないのかもしれません。
冷静に考えれば、陽菜とは長くて2ヶ月近くの付き合いで、それで世界を変えたとしても陽菜が戻る事を選ぶ、と言う選択が果たしてその短いスパンで出来るのか、なんです。
人によっては、その説明材料がたらなさすぎて腑に落ちない、と思うのかもしれません。
その部分については、陽菜においても言える気がします。
天野陽菜
弟の凪を一人で養う14歳の少女。
噂されている100%の晴れ女、その人です。
その力は非常に強く、一人の思いで世界=東京の天候を変えてしまうほどの影響力があります。
その代償として、体が透明化し、別の次元へと連れ去られてしまう……と言うキャラです。
ヒロインとしてはかなり芯が通ったキャラで、タダでビックマックを帆高に上げたり、凪のために働いたり、天候が変わったのは自分のせいだと感じて元の世界に戻らないと言う、自己犠牲が強い性格。
誰かが喜ぶ顔を見る事に嬉しがる、献身的なキャラでもある。
気になるところ
まず、第一の疑問として。
中学生なのに、親御なしに弟と住んでる。
それ義務教育国家の日本でどうやってたのかマジで不思議。
劇中では14歳の設定だったはずです。
普通なら親戚に預けられたり、祖父母が育てたりと、何かしら保護環境にいるはずなのに、それがない。
どんだけワイルドなんだこの環境。
あと、晴れ女の能力を受け継ぐ描写に関して。
どうも劇中の描写を見る限り、陽菜の能力は母親にも持たされていて、その力を受け継いでいるようなのです。
母親の手首に付けていたアクセサリーはチョーカーになり、そして天気の巫女としての力を使い果たした後は切れています。
それはつまり、母親は先代天気の巫女であり、その力のせいで亡くなったのではないか?
冒頭のシーンはそのようにも取れます。
ここら辺は人によっては説明不足、という人もいるでしょうし、想像の余韻がある、と言う視聴者もいるかもしれません。
トリックスター=セカイ系ヒロイン
また、ヒロインの陽菜はトリックスターでもあります。
急に難しい言葉を使います、すみません。
トリックスターとは、シナリオ上、大凡の意味として「常識を覆す発想や行動で汎用な日常=シナリオに異変を齎す、話し運びを進めるキャラ」として作られます。
これは劇中では絶対に彼女にしかなし得ないのです。
しかも本人には無自覚なものも。
14でありながら17〜8と偽りバイトしており、挙げ句身売りをしようとする。
弟の凪と、ボロアパートで二人暮し。
何故かわからないが天気を晴れにできる。
力を使い過ぎなのか体が透明化する。
夢の中で、複数人に別次元に飛んだことを示唆する夢を見せられる。
謎のサカナ達に囲まれて、それでも何故か無害。
今更ですが、非現実的要素のオンパレードでしょう?
いやもうトリックスターの要素だけでグツグツ鍋で煮込んだようなキャラクターです。
このようにシナリオ上、現実的な世界観を重視した中で、彼女しか非現実的・超常的な要素それぞれを持ち合わせていないのです。
ヒロインでありながら、周囲を困らす(悩ませる)、そしてシナリオ運びのメインキャラクター。
これもセカイ系シナリオ構成によく見られるパターンです。
新海誠作品のデメリット
新海誠監督の作品にはよくある話で、人物のバックヤードがあまり描かれないんです。
登場人物の切抜き感。
あからさまにこの映画のために用意された様な、その前のキャラの中身がイマイチ掴みづらい事が多いです。
この違和感が起きるのは、現実の風景が使われているからです。
現実味の強い背景に対し、切り抜かれてその時のために用意されたようなキャラクター。
なので、その対比が強すぎるために、どうしても力の比重が背景に持ってかれているためにキャラの感情移入が出来ないと言う弱みがあります。
「君の名は」以前の作品でも、自然と風景の中にいる様なモブキャラみたいな主人公が多かったので、これはキャラクターメイクの慣れの部分もあるのではと思います。
グレンラガンやキルラキルの脚本家が、しっとりした作品をかけるイメージがほぼ無いのと同じ様なもので。
その背景に飛び込むほど、消えてしまいそうな自然体のキャラ作りが得意な新海誠監督にとっては、エンタメよりのキャラメイクは苦手なのかもしれません。
須賀圭介
恐らく一番リアルなキャラ。
K&Aプランニング代表。
リアリストでニヒルな雰囲気を醸し出すも、好きな人は忘れない一途さもある。
オカルト雑誌に向けた記事提供をするライターでありながら超常現象を全く信用せず。
奥さんとは死別し、子供は義母に育てられており、子供とは中々合わせてくれない。
気になるところ
主人公の帆高と同じように一人で東京に来て、好きな人がいなくなる(死別とはまた違う意味)という境遇までリンクした人物。
ある種、別世界線の帆高が大人になったようなものです。
この事から、圭介はシナリオ上、帆高を陽菜へと導く役割が与えられていたものと思われます。
既に帆高に近い経験をした圭介が正しい道に導く。
もとい、帆高が陽菜に出会えるよう、遠回しにリードさせるキャラとして、監督は描いたんでしょうね。
劇中でも、元は予告でも「大人になれよ、少年」と自分との対比をさらに強調付けるようなセリフもあるわけで。
ただ、大人になってしまって何事も穏便にさせようとする、リアリストな性格から中々すぐに動きません。
帆高の「陽菜さんに会いたいんだ」と言うセリフでやっと一大決心し、今後子供に会えなくなるとしても構わないと取れる、警察への抵抗を行ないます。
この事から、リードする対象は帆高でもあるけれども、もう一つ、アニメと現実と切り離して見ている視聴者に対してのアプローチを新海誠監督に与えられていたのかもしれません。
大人とは、純粋な本来の意味と、もう一つは恐らく私達の事を指すんだと思います。
私達の感情を、劇中の帆高の思いや陽菜、夏美達の気持ちと繋げるための橋渡し役だったのではないでしょうか。
劇中では、大人達は帆高の敵ばかりです。
スカウトマンに殴られ、警察は陽菜の事も鑑みずただ捕らえようとし、親は帆高の気持ちを知ってた知らずか早く帰ってこいと言う。
僕達も普段、どこか劇中の大人達と同じ感覚で他人と接する場面もあるかと思います。
そこも描く事で既視感を与えて、作中の雨ばかりの東京に私達も存在してるかの様な入口を齎すキャラクターだったように思えます。
須賀夏美
圭介の姪、大学生。
帆高に愛人だと勘違いされるほどセクシーだけど、性格は明るく素直。
人の噂などに影響されやすくて、過信がち。
就活をするも合わないためか、結局K&Aに就職する模様。
気になるところ
この4人の中でも一番迷いがなく、行動的なキャラ。
いわば、メンタルで迷っている登場人物にアクションを持って、シナリオ面でも動きを与えるキャラです。
圭介は、視聴者の大人達をキャラの気持ちにリンクさせる人なのだとしたら。
夏美は、感覚的に登場人物達を繋いでくれる、運び屋なのだと思います。
劇中でもバイクや車を運転したりで、帆高をより効率的に導く、脳筋キャラでもあります。女性なのに。
どの男性キャラよりも能動的で活躍がアクティブで、女性と思えない役割が与えられる事で印象付けを行なっているのかもしれません。
そのためか、劇中での悩みは一番薄いようにも取れます。
だって、世界の天候と引き換えに出会う、主人公とヒロイン。
妻と死別して出会えなくなった経験から、上記の二人を子供に会えなくなる事も厭わず導く大人。
就活が上手く行かない中、仕事探しして二人も導く夏美。
いやちっせぇ!
規模がちっせぇ!!
こう書くと、一生に一度の選択が迫られてる人たちに比べたら、何と軽い事か。
いや、就活大変だってのは知ってるんですよ。ええ。
ただ、夏美にはまだこれからの人生が選べる立場でもあります。
未来が見えないという事は、逆に言えば今を生きる力にも溢れているのだと思います。
分からないってのはいい事もあり、見えないからこそ判断や選択が正しいか分からないから、とにかく突き進めると言う盲目ならではの強みがあります。
もし、ここで夏美も重い判断が必要なキャラだった場合、見てる人もしんどいと思います。
シナリオとしても、明朗快活に話が進まず、中々誰も助けに行かないと言う内容になっていたかもしれません。
帆高から警察を撒く途中で言うセリフに、
「白バイ警官になろうかしら」と夏美が言ったあとに、帆高からくる
「もうなれませんよ(こんなことしておいて)」と言うツッコミ。
あ、完全に考えてないキャラなんだな。
とよくわかりますよね。
この一見、アタマ空っぽに見える言動そのものが、劇中のキャラを繋ぐ爆発的な行動力に繋がっていくんです。
そのために、夏美は逆にここにいなかったら帆高も絶対陽菜に会いに行けてないし、圭介は奥さんも子供にも会えずにやさぐれて廃業してたかもしれません。
そう、この作品、意外と暗いんです。
あとがき
あかん、キャラの枠を越えて、演出の話をしようとしてる。
この次は演出や世界観について語りたいと思います。
こんな稚拙な文章力なブログですが、何か一人でも見てくれるなら嬉しいんですが。
語り足りないなぁ、天気の子は。